小売業の経営戦略を考える
今年10月から消費税が10%へ増税されることに合わせてキャッシュレスへの移行を加速させたい政府と、何かとややこしくなる作業に対応しなければならない企業との相性は良い感じはしませんし、様々な思惑が絡み合っていることでしょう。さらに企業にとっては最低賃金の上昇も控えている状況。3%上昇という目標を掲げる政府の政策は、多くの中小企業にとっては少なくない出費を捻出する必要性が年々高まってきています(韓国では2020年までに最低賃金を1万ウォン(約980円)にしたかったようですが、これは実現しなさそうです)。
世界的にも最低賃金は上昇傾向になる中で、日本だけが最賃を据え置くということは日本の立ち位置、外交政策などから考えても無理でしょう。つまり、固定費は上昇し続けるという前提に立って商売を再考しなければならず、かつ売り上げが横ばいであるまたは上昇率が小さい場合利益率は下がるという、当たり前の現象に直面することを覚悟しなければなりません。仕事柄企業へ対し経営戦略へ対するアドバイスや戦略構築、実行支援などを行っていますので、今回は小売業(特に最低賃金上昇の影響が大きな企業)をモデルに簡単ではありますが、思考戦略(シミュレーション)をしてみようと思います(あくまで弊社ならこう考えるというものです)。
小売業の中でも薄利多売な業態では、最賃の上昇は利益の圧縮に直結するに等しい現象となります。売り上げも同程度伸びればよいのですが、業態、地域、人口密度、インバウンドの取り込み率、交通手段、昼・夜の人口、滞在時間・日数などにもより同じ戦略をとっても有効である場合とそうでない場合に分かれるでしょう。では共通するものは何か?モノの移動(売買)。つまり、貨幣の運動(支払い)があるということです。当たり前のことだと感じられるかもしれませんが、ここにこれからの方向性を決定する要因があると思います。
ここでの貨幣の運動とは、レジでのやり取りを指します。店員は商品を一点ずつバーコードに通し総額を決定し提示。顧客は、提示された金額を確認、財布から現金またはカードを取り出し、店員へ渡す。現金支払いの場合は、店員が支払い金額の確認、現金手渡しかつおつり確認、現金が財布へリターン(お札と小銭)という工程を顧客の数だけこなすというオペレーションスタイル。レジの数だけ人員を配置するという戦略は、人口増加の続く経済高成長時にマッチしたやり方であり、現代には有効といえないばかりか、ケースによっては有害な戦略になっていると感じます。
日本では現金に対する信頼の厚さがあり、取引は現金という文化がまだまだ根強いし、小売業といってもサービスが大事であるから、レジでの顧客とのやり取りは重要。一方、最低賃金は毎年上昇、人口減少(高齢化と少子化)で求人の難易度も上昇、定着率は減少か良くて横ばい、という厳しい環境下。薄利多売の業態であれば、この状況は経営に深刻なダメージになることはすぐに理解できることでしょう。これら状況を総合的に考えていきますと、ある方向に収斂されます。解決の方向性として、①現金からキャッシュレス(IC、スマホ決済、クレジットカードなど)、②オールセルフレジ(無人化)が優先されるのではないでしょうか。どちらも現段階では実験的、未来的、批判的、不確実性なものを含んでいますが、いずれほとんどの小売業(またはその他の業種でも)でキャッシュレスかつ無人化へ移行することになるでしょう(人口減少に歯止めがかかりませんので)。それならば、体力のあるうちにこれらに移行していくとこがベターである、とこの戦略をクライアントに対し提案することになると思います(もちろんクライアント企業の状態、状況と実行可能性や実行のプロセスについても考えての提案になりますが)。ただし、すべての小売業に当てはまるものではなく、スーパー、コンビニエンスストア、100円ショップなどで当戦略の有効性は高まると思います。反対にブランドショップなどでこの戦略をとり入れますと、チープな印象を与えてしまう恐れもあり、ブランドの立ち位置などをよく考慮した上で決定するべきでしょう。
この戦略のポイントは、人員の配置を見直し省力化できるところからしていくということで、コスト削減の戦略といえます。目標値としてのコスト削減はありますが、真の狙いは①利益率の向上(または確保)、②事業に必要な人員の確保、③新サービスの創造(バリューチェーン自体が変化するため)です。
守りから攻めへつなげるための一手になりますが、体力を奪っていく要因を取り除きつつ、集客、販売、サービス、商品に一貫性を持たせ収益力を向上させる次の一手も準備することも忘れてはなりません。